親の介護費いくらかかるの?不安な人のための「お金の判断基準」

介護、何から始める?

「親」「介護費用」「いくらかかる」
「親の介護」「いつまで続く」
こんなキーワードで、スマホ検索を繰り返していませんか

平均月○万円、介護期間○年――
数字を調べれば調べるほど、
なぜか不安だけが大きくなっていく。

「平均はあくまで目安」
「人によって違う」
そう言われても、判断だけは今すぐ求められる。

できるだけお金をかけずに済ませたい。
正直、時間も取られたくない。
でも、そう思ってしまう自分を、どこかで責めている。

実は、介護費用の不安は、
単に「お金が足りない」ことだけが原因ではありません。
多くの場合、介護にどうお金を使えばいいか、判断するための軸がないことが、不安を大きくしています。

私は2009年から介護の現場で働き、
介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャーとして、今も介護する家族と向き合い続けています。
また、2児を育てながら働く母でもあります。

これまで、「私の親の場合、今後介護にいくらぐらいかかりますか」と、多くのご家族から質問を受けてきました。
でも、この問いに金額で即答できたことはありません。
なぜなら、介護費用は家族構成、距離、働き方、親の状態によって、全く違うからです。

ケアマネ
ケアマネ

だから、あなたが今「親の介護に、どのくらいお金がかかるのか分からない」と不安になるのは、ごく自然なことです。

介護のお金は、「正解の金額」を当てる問題ではありません。
必要なのは、迷ったときに立ち戻れる“判断のしかた”を持つこと。

この記事では、介護費用の平均額を示す代わりに、

  • いつ、何を決めなくていいのか
  • どこまでを考えておけばいいのか
  • お金・時間・感情をどう切り分けて判断するのか

そのための「考え方の軸」を整理します。

読み終えたとき、介護費用が「漠然と怖いもの」から、今の自分が判断できるテーマに変わっているはずです。


  1. 第1章|なぜ介護費は決められないのか
  2. 第2章|「平均いくら?」では、あなたの不安は消えない
    1. 平均額が安心につながらない3つの理由
      1. ① 平均は「あなたの親」を想定していない
      2. ② 状況の前提条件が省略されている
      3. ③ 「今の状態」がずっと続く前提になってしまう
    2. 実際に、介護費が想定とずれる3つの要因
      1. ①⏰ 介護度は上がることがある
      2. ② 👤家族がどこまで担うかで金額が変わる
      3. ③🏠 距離と生活環境が影響する
    3. だからこそ必要なのは「自分の親のケース」で考えること
  3. 第3章|介護費の不安は「金額」ではなく「決め方」で減らせる
  4. 第4章|判断基準①「時間」をお金に換算する
    1. ⏰介護で一番見えにくいコストは「時間」
    2. 💰自分の時間を「仮の時給」で置いてみる
    3. 「自分でやる」ことだけが、正解ではない
  5. 第5章|判断基準②「3つの線」を引く
    1. 介護の判断には3つの線がある
    2. なぜ、時間だけでは決めきれないのか
    3. 3つの線が混ざると、判断は重くなる
    4. 「線を引く」とは、突き放すことではない
  6. 第6章|判断基準③ 金額は3段階で持つ
    1. なぜ「ひとつの金額」を決めると苦しくなるのか
    2. 必要なのは「正解の金額」ではない
    3. お金の線は「3段階」で予算を立てる
    4. 決められなくても、進んでいる
    5. 判断できる状態が、あなたを守る
  7. 第7章|判断が狂うときのサイン(感情チェック)
    1. 介護の判断が狂いはじめるとき
    2. 感情は、判断の敵ではない
    3. 判断が狂ったのではなく、更新が必要なだけ
    4. 感情に気づける人ほど、判断を続けられる
  8. 第8章|モデルで見る「判断できる介護」
    1. モデルケース①|遠距離で暮らす、ひとり娘の場合
      1. STEP1|時間をお金に換算する(第4章の使い方)
      2. STEP2|3つの線を引く(第5章の使い方)
      3. STEP3|お金は「3段階」で持つ(第6章の使い方)
      4. STEP4|感情チェック(第7章の使い方)
      5. STEP5|「今は決めない」という選択
    2. モデルケース②|同居・きょうだいがいない場合
  9. 「お金が足りない」と感じたとき、知っておいてほしいこと
    1. 「お金がないから、全部自分がやる」にならないでほしい
  10. まとめ|介護に必要なのは、正解より「判断できる状態」

第1章|なぜ介護費は決められないのか

「親の介護にどのくらいのお金が必要になるのか」
この問いに対して、「月○万円かかる」とはっきり答えられれば、予算を組み、備えることができます。
でも、正確な介護の予算を組むことは、非常に難しい問題です。

🔷介護費が決められない理由

  1. 期間が分からない
    親があと何年生きるか、要介護状態がどのくらい続くか、
    寿命や介護期間を想定することは誰にもできません。
    長期化することもあれば、突然終わりがくることもあります。
    期間が分からないため、今お金を使うべきか、将来のために残しておくべきか、
    どちらを選んでも不安が残る。
    それが、介護費用を決められない大きな理由のひとつです。
  2. ゴールが見えない
    介護は「ここまでやったら完璧」というゴールがありません。
    「もっと親に快適に過ごしてもらいたい」「もっとリハビリ頑張って、元気になってもらいたい」
    こんな感情に逆らって、老いは少しずつ進んでいきます。
    個々の置かれている環境や生活背景、能力・性格、多くの要素から、
    今の時点での小さなゴールを個別に設定する必要があります。
    このゴールがないまま情報に触れると、
    「もっとできることがあるのではないか」 「今の選択では足りないのではないか」 と、自分を追い込んでしまいます。
  3. 状態が変わる
    高齢者は、短期間の入院や一度の転倒で大きく状態が変わることがあります。
    また、高齢になると、何かしらの持病を抱えている人も多く、持病の悪化も大きく影響します。
    必要とする介護の中身も、状態に応じてどんどん変化していくため、
    一旦は「このぐらいの費用がかかる」と目途がついても、
    状況が変われば、また新たな判断を迫られることになります。
  4. 感情が絡む
    介護費用の判断には、 常に感情が絡みます。
    「親にはできるだけ苦労させたくない」
    「自分がやらなかったら、後悔する気がする」
    「お金を理由に、手を抜いていると思われたくない」
    本当は、体力的にも時間的にも限界を感じていても、 こうした感情がブレーキをかけ、
    冷静な判断を難しくします。
    さらに厄介なのは、 お金の判断が、そのまま“愛情の量”のように感じられてしまうことです。
    だから介護費用の話は、 ただの家計の問題ではなく、
    「親との関係」や「自分のあり方」まで揺さぶるものになります。

このように、介護費用が決められないのは、知識が足りないからでも、 判断力が弱いからでもありません。
どれだけ真面目に考えても、将来の状態や期間を正確に予測できない以上、介護費用を“完璧に計画する”こと自体が難しいのです。
介護費用は、「正解の金額を当てる問題」ではなく、
状況と感情に向き合いながら、その都度、 「今の時点で、何を優先するか」の判断を繰り返していく問題です。


第2章|「平均いくら?」では、あなたの不安は消えない

平均額を知っても、あなたの不安が消えないのは、平均額は「判断の材料」にはなっても、「判断基準」にはならないからです。
介護の形も、期間も、親の状態も、家族の関わり方も、同じ条件の家庭はひとつとしてありません。それぞれの状態により、費用は大きく変動します。

🔹介護費用の内訳(平均)

公益財団法人生命保険文化センターの「2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査」によると、主な費用の平均は以下の通りです。

費用の種類 平均金額備考
一時的な費用約47.2万円住宅の改造、介護用品の購入などにかかる費用
月々の費用約9.0万円公的介護保険サービスの自己負担分、食費、日用品費など
介護期間約4年7ヶ月介護が必要になった期間の平均

これらの平均値から、介護にかかる総費用は単純計算で約500万円~570万円程度になるとされています。 

娘

それじゃあ、介護費用の平均額500万円ぐらいを備えておけば、ひとまず安心なのでは?

そう考えたくなる気持ちは、とても自然です。
でも残念ながら、平均額をそのまま備えの目安にしても、介護費用の判断は楽になりません。

平均額が安心につながらない3つの理由

① 平均は「あなたの親」を想定していない

平均額は、元気な人も、医療依存度の高い人も、
介護が短期間の人も、長期間の人も、すべて混ざった数字です。

つまり、

「多くの人がこうだった」

という結果であって、「あなたの親がこうなる」わけではありません。

たとえば、身体は元気でも認知症がある場合、食事や排泄の介助はほとんどなくても、
・見守り
・迷子時の緊急対応
・入院時の付き添い
など、平均には出てこない負担が増えます。

② 状況の前提条件が省略されている

平均額の多くは、

  • 介護期間
  • 家族の関わり方
  • 同居か別居か

といった前提条件が書かれていないことがほとんどです。

前提が違えば、同じ「要介護2」でも、かかるお金はまったく変わります。

③ 「今の状態」がずっと続く前提になってしまう

平均額を見ると、無意識のうちにこう考えてしまいます。

とりあえず、今の感じが続くなら大丈夫そう

でも、介護は状態が変わることを前提にした生活です。

この「変化」が、費用のブレを生みます。


実際に、介護費が想定とずれる3つの要因

平均額があてにならない理由は、数字の性質だけではありません。
現実には、こうした変化が起こります。

①⏰ 介護度は上がることがある

転倒、病気、認知症の進行などで、介護度が上がると、
使えるサービスの種類や必要な量も変わります。

結果として、

  • 自己負担額が増える
  • 自費サービスを検討する

というケースは少なくありません。

② 👤家族がどこまで担うかで金額が変わる

「家族がやる」か「外に頼む」か。

  • 通院付き添い
  • 見守り
  • 家事援助

これを誰が担うかで、時間の負担か、お金の負担かが変わります。

どちらが正しいではなく、その時の家庭状況で判断が変わる、という点が重要です。

③🏠 距離と生活環境が影響する

  • 実家が遠方
  • 一人暮らし
  • 仕事・育児との両立

こうした条件が重なると、介護保険内だけでは足りず、
自費サービスや移動コストが発生することもあります。


だからこそ必要なのは「自分の親のケース」で考えること

平均額は、「介護にはこれくらいかかることがある」という入口の目安にはなります。

でも、安心につながるのは平均ではなく、

  • 親の今の状態
  • これから起こりそうな変化
  • 家族がどこまで関われるか

を前提にした、あなたの家なりの想定です。


第3章|介護費の不安は「金額」ではなく「決め方」で減らせる

親の介護費用について、予算を立てること自体は大切です。
ただし、介護費の予算は「一度決めて、その通りに守り続けるもの」ではありません。

介護は、状況が変わる前提で進んでいきます。
そのため必要なのは、ひとつの正解の金額を決めることではなく、
いくつかの状況を想定したシミュレーションを持っておくことです。
(具体的な金額の見積もりは、ケアマネジャーなどの専門家に任せれば大丈夫です)

介護の場面では、こうした分岐点が何度も訪れます。
そのたびに、介護費の使い方を選びなおすことになります。

ケアマネ
ケアマネ

さらに、介護費用の問題をよりつらく感じさせる要因として、「誰が判断するのか」という問題があります。

親が高齢になるにつれて、これまで親自身が決めてきたことを、
子どもであるあなたが判断しなければならない場面が増えていきます。
親の意向を尊重したい気持ちがあっても、その通りに動いていては生活が回らなくなることもあります。

その結果、親子の間で方向性のズレが生じたり、「自分の判断は本当に正しいのか」と、
正解の分からないまま決断を重ねることになります。この状態が、介護費用への不安をさらに大きくします。

だから必要なのは、正確な金額を当てることではありません。
何を優先し、どこにお金を使うのか。
迷ったときに立ち戻れる、判断の軸を持つことです。


第4章|判断基準①「時間」をお金に換算する

介護費の話になると、
「できるだけお金をかけずに、自分でやらなきゃ」
そう考えてしまう人は少なくありません。

でも、ここで一度立ち止まって考えてほしいことがあります。
あなたの時間は、本当に“無料”でしょうか。


⏰介護で一番見えにくいコストは「時間」

介護にかかるお金は、請求書を見れば分かります。
一方で、あなたが介護に使っている時間は、どこにも数字として残りません。

  • 仕事を早退した時間
  • 移動にかかった時間
  • 電話対応や手続きに追われた夜
  • 気が休まらず、何もできなかった休日

これらはすべて、コストとして見えにくい介護費です。


💰自分の時間を「仮の時給」で置いてみる

今あなたは、親の介護にどのくらいの時間を使っているのでしょうか。
ここでやるのは、「自分の価値を値踏みすること」ではありません。

判断の材料をそろえるために、自分の時間に“仮の値段”を置いてみるだけです。

たとえば──
あなたの1時間を、仮に1,500円とします。

  • 週に10時間、介護に使っている
    → 月に約6万円分の時間
  • もし外部サービスを使えば
    → 月4万円で済むケースもある

この2つを、同じ土俵に並べて見る。それだけで、選択肢が見えてきます。


「自分でやる」ことだけが、正解ではない

ここで大切なのは、外注したほうがいい、と結論を出すことではありません。

  • あなたにしかできない役割があるか
  • 今は、どこに力を使うべき時期か
  • 体力・仕事・子育てとのバランスはどうか

これらを考えるための、材料をそろえるのが目的です。

あなたが全部を背負うことと、あなたが価値ある役割を果たすことは、
イコールではありません。

第5章|判断基準②「3つの線」を引く

前の章では、あなたの「時間」をお金に換算し、外部サービスと同じ土俵に並べました。

ここまで読んで、こんな感覚を持った人も多いかもしれません。

娘

比べられるようにはなったけれど、
それでも「どう決めたらいいか」は分かりません。

それは、あなたの判断力が足りないからではありません。

介護の判断が難しいのは、ひとつの基準だけで決めようとしてしまうからです。

介護の判断には3つの線がある

介護費用の判断が苦しくなるとき、多くの場合は、次の3つが無意識のうちに混ざっています。

  • お金の線
  • 役割の線
  • 感情の線

この「線」とは、判断を混乱させないための境界線です。
まずは、この3つがあることを知っておくだけで十分です。


なぜ、時間だけでは決めきれないのか

たとえば、

  • 時間を減らしたほうが楽だと分かっている
  • 外注したほうが合理的だと理解している

それでも、

  • 「ここは自分がやるべきでは?」
  • 「お金で解決していいのだろうか」
  • 「冷たい子どもだと思われないか」

そんな迷いが、必ず顔を出します。

これは、時間や金額の問題ではありません。

あなたの中にある、別の基準が同時に動いているからです。

3つの線が混ざると、判断は重くなる

3つの線が混ざると、判断は重くなります。

たとえば──

(具体例①)お金の線
本当は、外部サービスを使えば家計的にも時間的にも楽になる。
それでも「子どもなのに、人に任せていいのだろうか」「親の世話をお金で済ませるのは、薄情なのでは」、
そんな気持ちが先に立ち、金額の話ができなくなってしまう。

(具体例②)役割の線
仕事や育児で手一杯なのに、介護の役割が自分に集中している。
本当は、きょうだいや周囲と分担を考えたい。
それでも「私が我慢すればいい」「文句を言うのは、親不孝なのでは」
と感情がブレーキをかけ、役割を見直す話し合いができなくなる。

(具体例③)感情の線
親の衰えを見るのがつらい。将来が不安で、気持ちが追いつかない。
本当は、気持ちを整理する時間が必要なのに、「とりあえず、いくらまで出せばいいのか決めなきゃ」と数字だけを急いで決めてしまう。
不安の正体に触れないまま、金額だけで蓋をしてしまう。

こうして線が混ざると、
どれだけ考えても、判断はまとまりません。

だから必要なのは、
「正しい答え」を出すことではなく、考える場所を分けることです。

「線を引く」とは、突き放すことではない

「線を引く」と聞くと、冷たく突き放すように感じるかもしれません。
でも、この線は親を切り捨てるためのものではありません。
むしろ、迷い続けて動けなくなることを防ぐための線です。

「これはお金の問題」
「これは役割の問題」
「これは感情の問題」

そうやって、

考える棚を分けるだけでいいのです。
それだけで、判断は驚くほど静かになります。

また、3つの線は、同時に完璧に引く必要はありません。
まずは、「今、自分はどの線で迷っているのか」それに気づくだけで十分です。


第6章|判断基準③ 金額は3段階で持つ

――お金はいくら出すかではなく、どう判断できるか――

介護費用を考えるとき、多くの人が最初に悩むのは、「いくらまでなら出せるのか」という点です。

ひとつの金額を決めてしまえば、それで安心できる気がする。
そう感じるのは、とても自然なことです。

でも実際には、この考え方が、介護費用の不安を長引かせてしまうことがあります。


なぜ「ひとつの金額」を決めると苦しくなるのか

介護は、状況が変わる前提で続いていくものです。

親の状態が変わる。
必要な支援の内容が変わる。
あなた自身の仕事や家庭の状況も変わる。

それなのに、「この金額なら大丈夫」とひとつの答えを決めてしまうと、
その前提が崩れた瞬間、すべてが不安に変わってしまいます。

この判断で本当に良かったのか。
この先も続けられるのか。
まだ何も起きていなくても、心はずっと緊張したままになります。


必要なのは「正解の金額」ではない

介護費用で本当に必要なのは、正解の金額を当てることではありません。

必要なのは、「この範囲なら判断できる」と言える状態です。

いくら出すかを一度で決めるのではなく、
状況が変わったときに、立ち戻れる基準を持つこと。

そのために役立つのが、お金の線を「幅」で考えるという視点です。


お金の線は「3段階」で予算を立てる

介護費用の予算を考えるときは、ひとつの金額ではなく、3つの段階で考えます。

この3つは、今すぐ金額を決めるためのものではありません。

「今の自分は、どのラインを基準に考えているか」
それを確認するための物差しです。


決められなくても、進んでいる

この時点で、「最低はいくら、現実はいくら、限界はいくら」
と数字が出ていなくても、問題ありません。

大切なのは、お金の判断に、
最低・現実・限界という、3つの視点を持てたことです。

これがあるだけで、介護費用は、漠然とした不安ではなく、
整理できる判断に変わっていきます。


判断できる状態が、あなたを守る

介護費用の不安は、お金そのものよりも、
「この判断で大丈夫だろうか」という迷いから生まれます。

お金の線を引くとは、無理をしないための逃げ道を、あらかじめ用意しておくことでもあります。

次の章では、こうした判断がズレはじめるときに現れる感情のサインについて整理します。

あなたの判断が間違っているのではなく、気づくべきサインを見逃しているだけかもしれません。


第7章|判断が狂うときのサイン(感情チェック)

ここまでで、介護費用を判断するための「お金の線」を持ちました。

それでも、あるタイミングから、判断が急に苦しくなることがあります。

数字は整理できているはずなのに、なぜか決めきれない。
前と同じ判断ができない。

それは、あなたの判断力が落ちたからではありません。

感情が、限界を知らせ始めているサインです。


介護の判断が狂いはじめるとき

介護費用の判断は、いつも論理だけでできるわけではありません。
むしろ多くの場合、判断がズレるきっかけは、感情の変化として先に現れます。
たとえば、次のような状態に心当たりはありませんか。

🔷判断が狂いはじめるサイン(感情のチェック)

イライラが増える
些細なことで腹が立つ
親や家族に、きつい言い方をしてしまう
眠れない・疲れが取れない
考えごとが頭から離れない
夜中に何度も目が覚める
強い罪悪感が続く
「もっとできるはず」と自分を責める
お金や時間を使う判断に後ろめたさがある
自分の生活が削られている
仕事や家庭に影響が出ている
休むことに罪悪感を覚える

これらはすべて、「あなたが弱いから」起きるものではありません。

むしろ、これまで無理をして判断を続けてきた証拠です。


感情は、判断の敵ではない

感情が出てくると、
「冷静にならなければ」
「感情的になってはいけない」
そう思いがちです。

でも、介護においては逆です。

感情は、判断を邪魔するノイズではなく、判断を見直すためのサインです。

イライラや罪悪感は、「今のやり方が、あなたにとって限界に近づいている」
という知らせでもあります。

ケアマネ
ケアマネ

どうか、感情のサインに目を背けないでください。
感情が揺れたときに必要なのは、無理に気持ちを抑えることではありません。

まずは、こう問い直してみてください。

  • これは「お金の線」の問題だろうか
  • それとも「役割の線」の問題だろうか
  • それとも「感情の線」が越えそうなのだろうか

感情が強く出ているときほど、判断の軸を見直すタイミングです。


判断が狂ったのではなく、更新が必要なだけ

介護は、一度決めた判断をずっと守り続けるものではありません。
状況が変われば、判断も変わって当然です。

感情が大きく動いたときは、「判断が失敗した」のではなく、
判断を更新する時期が来たと考えてみてください。

そう捉えられるだけで、自分を責める必要はなくなります。


感情に気づける人ほど、判断を続けられる

感情を無視し続けると、ある日突然、何も決められなくなってしまいます。
でも、違和感やしんどさに早く気づければ、判断は少しずつ現実に合った形へ戻せます。

感情に気づくことは、甘えではありません。
判断を続けるために必要な、大切な技術です。

次の章では、ここまで整理してきた判断の軸を使って、
実際に「どう考えるか」をモデルケースで見ていきます。

同じ正解はなくても、同じ考え方は使える。
それを、具体的に確認していきましょう。


第8章|モデルで見る「判断できる介護」

ここまでであなたは、

  • 時間をお金に換算する
  • 3つの線を引く(お金の線、役割の線、感情の線)
  • 金額は「結論」ではなく「幅」で持つ(最低・現実・限界ライン)
  • 感情が判断を狂わせるサインを知る

──という判断の道具を手にしました。

この章ではそれを
👉 「実際の場面でどう使うのか」
👉 「どうやって“自分で決めた”状態をつくるのか」
を、モデルケースで見せます。

モデルケース①|遠距離で暮らす、ひとり娘の場合

状況

  • 40代娘、夫婦共働き・子ども2人
  • 母親は車で片道1時間半の場所で一人暮らし
  • 最近つまずくことが増え、通院付き添いも必要に
  • 仕事の休日に帰省し、時々重たいものの買い物を手伝っている
  • 娘は「今はまだ介護するほどじゃない」と思いたい気持ちが強い

STEP1|時間をお金に換算する(第4章の使い方)

まず、「なんとなく大変」を数字にします。

  • 帰省:週1回
  • 移動往復3時間+滞在2時間=5時間
  • 週5時間 × 時給1,500円換算 = 7,500円
  • 月換算:約3万円分の時間

ここでのポイントは「高い・安い」を判断しないこと。

ただ

私はすでに、月3万円分の時間を使っている、
と“見える化”するだけです。


STEP2|3つの線を引く(第5章の使い方)

次に、「これ以上どこまでなら続けられるか」を整理します。

お金の線

  • 自分はすでに、月3万円程度の時間を使っていると認識する
  • 今後、月1回の通院付き添いが増えた場合、どのくらいの時間を使うことになるか考える
  • 実際に外注した場合の支払いにおいて、「最低・現実・限界ライン」を考える

役割の線

  • 週1回の帰省なら何とか続けられる
  • 夜間や平日の急な呼び出しには、対応できない
  • 仕事を休んでまで、通院の付き添いはしない

感情の線

  • 転倒リスクをゼロにすることは無理、ここに責任は持たない
  • 親の「不安な気持ち」を全部受け止めない

ここで初めて、
👉 「家族が背負わなくていい部分」
が輪郭を持ち始めます。

STEP3|お金は「3段階」で持つ(第6章の使い方)

ここでは結論を出しません。
実際に費用の支払いが生じた場合、3段階で予算を立てます。

  • 最低ライン:月1万円まで
  • 現実ライン:月3万円前後
  • 限界ライン:月7万円までなら検討可能

モデルケース①では、まだ介護サービスは使っていません。
それでも最低ラインは決められます。

たとえば、週1回の帰省。
これを減らすと、親の変化に気づきにくくなり、
「何かあったらどうしよう」という不安が一気に強くなります。

だからこの人にとって、月1万円の交通費は削れない支出。
これが、この時点での最低ラインです。

「使う・使わない」ではなく、“考えていい範囲”を決めただけです。


STEP4|感情チェック(第7章の使い方)

ここで一度、自分の状態を確認します。

  • 「まだ大丈夫」と言い聞かせていないか
  • 罪悪感で判断していないか
  • 親の不安に引っ張られていないか

このケースでは、
「まだ介護するほどじゃないと思いたい」という気持ちが強く出ていました。

ここで大切なのは、
その感情を否定せず、判断材料の一つとして扱うことです。

感情が揺れている状態で結論を急げば、後から「やっぱり違った」と判断がズレやすくなります。

だからこの人は、今すぐ結論を出すのではなく、“今は決めない”という選択を、意図的に取っています。


STEP5|「今は決めない」という選択

最終的にこの人が選んだのは、こうです。

  • 今は、週1回の帰省を継続する
  • 月1回の通院は、できるだけ自分の休日に合わせて対応する
  • 介護サービスの利用はまだしない
  • ただし
    • 地域包括支援センターに相談する
    • 月3万円以内で使える、自費訪問介護サービスをリストアップする
    • 母が転倒したり、通院のために仕事を休む必要が出たら、“迷わずサービスを使う”と決めておく

これは、何もしない選択ではありません。
「判断できる状態」を、前もって作った選択です。


モデルケース②|同居・きょうだいがいない場合

親と同居で、きょうだいもいない。
この場合、介護の負担は時間として膨らみやすくなります。

線を引かないまま関わると、「できる人が、ずっとやる」状態になりやすく、
気づけば24時間介護になってしまいます。

金額に余白がないケースほど、大切になるのは「どのサービスを使うか」ではなく、
自分が担う役割に、線を引くことです。

判断できる介護とは、正解を出すことではありません。

  • 自分の時間
  • 自分の限界
  • 自分が背負わない責任

それを言語化し、選べる状態をつくることです。

「お金が足りない」と感じたとき、知っておいてほしいこと

介護のお金の話は、「出せる・出せない」で語られがちです。

でも実際には、
本当に金銭的に余裕がない人もいるし、
一時的に苦しい時期を通っている人もいます。

だからこそ、まず知ってほしいのは、
お金が足りない人を支える制度が、きちんと用意されているということです。

たとえば、

  • 地域包括支援センター
  • 市区町村の高齢福祉課
  • 社会福祉協議会

こうした窓口では、介護保険だけでなく、減免制度や利用できる支援を一緒に整理してくれます。

「こんなことで相談していいのかな」そう思う必要はありません。
相談すること自体が、判断を助ける行為です。


「お金がないから、全部自分がやる」にならないでほしい

ここで、いちばん伝えたいことがあります。

それは、漠然と「お金がない」と不安になるあまり、
すべてを自分で背負わないでほしい
ということです。

この記事でお伝えしてきたように、

  • お金の線
  • 役割の線
  • 感情の線

これらを確認しながら、その都度「今の自分にとって、最適だと思える判断」を選んでいく。

それが、介護における“お金の使い方”の本質だと思っています。


まとめ|介護に必要なのは、正解より「判断できる状態」

介護では、最初から完璧な結論を出す必要はありません。

今はまだサービスを使わない
でも「ここまでなら、使ってもいい」という線を引いておく
そして、しんどくなったら、1人で抱え込まず相談する

そうやって、判断できる状態を保つことが、結果的にあなたと家族を守ります。

最後に。

ケアマネ
ケアマネ

介護は、がんばった人が報われる世界ではありません。
無理を重ねた人ほど、静かに限界を迎えてしまう、そんなご家庭をこれまでにもたくさん見てきました。

でも、ひとりで抱え込まなかった人は、壊れにくい。
判断を外に出し、助けを使えた人は、続けられます。

この記事が、あなたが線を引くための手がかりとなり、
判断を自分ひとりの中だけに閉じ込めないための、支えになれたなら幸いです。

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