離れて暮らす親のこと。
「そろそろ親の老後のこと、介護のこと、ちゃんと話したほうがいいのかな」
そう思いながらも、なかなか切り出せずにいる人は多いのではないでしょうか。
実は私自身、ケアマネジャーとしてたくさんのご家族と関わってきましたが、
いざ“自分の親”に介護の話をするとなると、今でも緊張します。
「親を介護する年齢に、もう自分はなったんだな」
そう実感すること自体が、どこか少しだけさみしくて、
少しだけネガティブに感じてしまうこともあります。
そんな中で、思い切って声をかけてみると返ってくる言葉が、
「まだ大丈夫だから」
この一言に、ほっとする気持ちと、
どこか引っかかるような不安が、同時に残ることはありませんか?

「そう言われたら、それ以上聞けなくなる…」
「本当に大丈夫なのかなって、モヤっとする」
この記事では、
高齢の親が口にする「まだ大丈夫」という言葉の裏にある本音と、
その言葉をどう受け止め、どう返せばいいのかを、
現役ケアマネの視点から、できるだけやさしくお話ししていきます。
※この記事では、離れて暮らす親のことで悩む「40代の娘さん」を、
読者モデルとして「まゆさん」と呼んでいます。
あなた自身に置き換えて読んでみてくださいね。
「まだ大丈夫」は“拒否”ではなく“防衛”のサイン
「まだ大丈夫」その本心は?
この言葉を聞くと、
「じゃあ、もう少し様子を見ていようかな」
そう思って、話題をそこで終わらせてしまうことも多いと思います。
でも、この「まだ大丈夫」は、
必ずしも“何も問題がない”という意味ではないことが、とても多いのです。
高齢の親がこの言葉を口にするとき、
そこには
- 心配をかけたくない気持ち
- これ以上、歳をとった自分を認めたくない気持ち
- そして、変化に対する小さな不安
そんな感情が、静かに重なっていることがあります。
「まだ大丈夫」は本当に大丈夫?
「まだ大丈夫」の“ライン”は、
実は本人と、まわりの人とで大きく違うことがあります。
親本人は、
「これくらいなら自分でできている」
「まだ困っていない」
そう感じて、本気で「大丈夫」と思っていることも少なくありません。
けれど、専門家の目から見ると、
転びやすくなっている、家事が負担になっている、外出の頻度が減っているなど、
いくつもの心配なサインが、静かに潜んでいるケースも多いのが現実です。
それでも、
その“ギャップ”を、今この段階ですべて本人に伝える必要はありません。
「まだ大丈夫」をどう受け止めればいい?
「まだ大丈夫」という言葉は、
現状をごまかしているというよりも、
不安から自分の気持ちを守るための“防衛サイン”
そう受け止めるだけで、今の時点では十分だと思います。

“大丈夫”という言葉、
実は“助けて”の手前にあることも多いんです。
無理に踏み込まなくても、
否定しなくても大丈夫です。
まずはその言葉を、そっと受け止めること。
そこから、親との関係性は少しずつ、やさしく動き出していきます。
多くの高齢者が言う「まだ大丈夫」の裏にある4つの本音
① 自分の弱りを認めたくない
老いること、
これまで当たり前にできていたことが、少しずつできなくなっていくこと。
それを認めて、受け入れるには、どうしても時間がかかります。
「まだ若いつもりでいたい」
「昔と同じようにできていると思いたい」
体力や筋力が衰えていく自分を認めたくないのは、
とても自然な気持ちとも言えます。
たとえば、
つまずいたのに「ただの不注意」と言ったり、
疲れやすくなっているのに「今日はたまたま」と話を終わらせたり。
そんな場面に、心当たりはありませんか?
💡私が新人時代に担当した82歳・女性のAさん
最近閉じこもりがちになってきたので、デイサービスを勧めてみたところ、
「あんなおばあちゃんばっかりが行くようなところ、私は行かないよ」
と一蹴されてしまったことがあります。
② 子どもに心配をかけたくない
これまで育て、守ってきた子どもに、
今度は自分のことで心配をかける——
それは、親にとって簡単に受け入れられることではありません。
「忙しいだろうから大丈夫」
「自分のことは自分でやれるから」
そう言いながら、
実は心のどこかで、気にかけてもらえることを少しだけ望んでいる
そんな複雑な気持ちが隠れていることもあります。
③ 介護サービス=抵抗・恥
これまで大きな病気や入院の経験が少なく、
「元気なまま年を重ねてきた」と感じている人ほど、
- 介護サービス=弱った人が使うもの
- 自分はまだその段階じゃない
と感じやすい傾向があります。
「人に世話になるのは、なんだか負けた気がする」
「ご近所に知られるのが少し恥ずかしい」
そんな気持ちが、
「まだ大丈夫」という言葉につながっていることも少なくありません。
💡歩行が不安定になってきた、79歳・男性のBさん
外を歩くときに歩行器を使うよう提案してみましたが、
「そんなの使ってるのを近所の人に見られるのは嫌だ」と、
晴れの日でも傘を杖に歩いていたことが思い出されます。
④ 変化を受け入れるのが怖い
「困っている」「助けてほしい」と口にしたら、
いったい何が起きるんだろう。
そう考えるだけで、不安になる方もいます。
- すぐに施設に入らされるのでは?
- 今の家で暮らせなくなるのでは?
- 知らない人が家に来るのでは?
このように、
“よく分からない変化”への不安が、怖さとしてふくらんでしまう
それも「まだ大丈夫」の大きな理由の一つです。
“大丈夫じゃなかったケース”で起こりやすい3つのリスク
ここでは、「まだ大丈夫」と言っていたものの、
あとから振り返ると“あのとき少し対策していれば…”と思うことが多いケースを、
実際にあった事例をもとにご紹介します。
✅ 転倒
最近、歩くときにふらつくことが増えていた、80代後半の男性Aさん。
娘さんが心配して相談に来られ、
浴室まわりに手すりをつけるよう勧めましたが、Aさんは「まだ大丈夫」と拒否されました。
その後、浴室前の小さな段差でふらつき、尻もちをついて転倒。
幸い大きなケガにはならず打撲で済みましたが、
この出来事をきっかけに、手すりの設置を受け入れてくださいました。
転倒は、ほんの一瞬のふらつきから起こることが多く、
「大丈夫」と感じているときほど、対策が後回しになりやすいリスクでもあります。
✅ 服薬ミス
薬を自己管理していた、80代前半の女性Bさん。
そろそろ薬がなくなる頃だと思い、娘さんが受診を勧めたところ、
「まだ薬はたくさん残っているよ」と返ってきたそうです。
不安に思った娘さんから相談を受けて確認すると、
実際には飲み忘れが頻繁に起きていたことが分かりました。
幸い、血圧の大きな変動などはありませんでしたが、
主治医からも服薬の大切さをあらためて説明され、
現在はお薬アラームタイマーを使って管理されています。
服薬ミスは、体調の変化がすぐに表に出ないことも多いため、
気づいたときには状態が悪化している、というケースも少なくありません。
✅ 認知変化の見逃し
70代後半の女性。
娘さんは「まだ年齢的に認知症ではないだろう」と思っていたそうです。
ただ、電話での会話が少しかみ合わなかったり、
同じ話を何度も繰り返すことが増えてきたりと、
今思えば小さな変化は少しずつ出ていました。
それでも、「まだ大丈夫」と言われ続け、しばらく様子を見ていた結果、
受診したときには、すでに、
電話で話した内容を覚えていなかったり、約束の日時を何度も間違えたりと、
娘さんが「さすがに心配かもしれない」と感じる場面が増えている状態でした。
認知機能の変化は、
家族が“まだ大丈夫”と思っている間に、静かに進んでいくことも多いのです。
このように、「まだ大丈夫」は決してウソではなくても、
“少しずつ進んでいる変化”を見えにくくしてしまう言葉でもあります。
大切なのは、
怖がらせることではなく、
「今は大丈夫そうだけど、念のために少しだけ気にしておこう」
そんな目線を持つことなのかもしれません。
「まだ大丈夫」への返し方|正面から否定しないのが鉄則
「どこが大丈夫なんだ!」
思わず、そう突っ込みたくなることもありますよね。
でもここは、ぐっとこらえて、
「本人は“まだ大丈夫”だと思っているんだ」
という気持ちを、まずはそのまま受け止めることが大切です。
いちばん最初の返しは、
「そうなんだね」
それだけで十分です。
「いやいや、大丈夫じゃないでしょ。危なっかしいよ」
「もう一人で管理するのは無理だよ」
こんなふうに否定したり、評価したりすると、
プライドを傷つけられた親は、アドバイスそのものが耳に入らなくなってしまいます。
せっかくの“心配”が裏目に出て、
心の距離ができてしまわないように、ここは本当に慎重にいきたいところです。
✅ いきなり説得しない。まずは「情報」だけ渡す
いきなり
「手すりをつけよう」
「介護サービスを使おう」
と結論に持っていくのではなく、まずは情報だけをそっと渡します。
たとえば――
- 「歩くのがしんどいときって、こんな用具があるらしいよ」
- 「薬を飲み忘れないようにするには、こんな方法もあるんだって」
“やらせたい”ではなく、
「たまたま知った情報」を共有するくらいの距離感がちょうどいいのです。
✅ 最後は「選んでもらう」形にする
そのうえで、
「お母さんは、A案とB案、どっちの方法が合ってると思う?」
と、選択してもらう形に持っていくと、うまくいくことがあります。
人は、
「決められる」のは苦手でも、
「自分で選ぶ」のは、意外と受け入れやすいものです。
“まだ大丈夫”のときにやるべき行動3つ
「まだ大丈夫」と言われたとき、
無理に説得しようとすると、かえって関係がこじれてしまいます。
この段階で大切なのは、
① さりげなく“変化を観察する”
↓
② 帰省後に“相談につなげる”
↓
③ “小さな提案”だけをする
この3つです。
① 観察するー何を・いつ・どう見るか
目的:漠然とした不安を「見えるサイン」にする
観察のポイント(短時間でチェックできる項目)
観察のタイミング(ムリなくできる頻度)
- 短期(帰省中):到着時・最終日にサッとチェック(写真1~3枚を推奨)
- 日常(遠距離で見守る場合):週1回の電話で「食事」「服薬」「外出の有無」を簡単に確認
- 変化を感じたら:すぐにメモしておく(小さな変化を見逃さない)
「見る」ときの心がけ(受け止めトーン)
- 評価しない(「できてない」ではなく「変化があるか」)
- さりげなく(観察=詮索にならないように)
- あくまで事実を集める(感情は後回し)
👉 こうした小さな変化は、
「まだ大丈夫」の裏に隠れた“サイン”であることが少なくありません。
② 記録する — むずかしく考えなくて大丈夫
目的:あとで病院や相談窓口にスムーズに相談できるように、
「気になったこと」を忘れないために残しておく。
また、家族同士で「言った・言わない」「そんな話聞いてない」を防ぐため。
「記録」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、
やることはたったこの2つだけでOKです。
✅ 気になったところを【写真で1枚】
✅ あとから思い出せるように【一言メモ】
📸 写真はこれだけ撮れたら十分
- 冷蔵庫の中
- 薬の置き場所
- 玄関の靴や廊下
- キッチンまわり
→ 「あとで専門家に見せるかも」くらいの気持ちでOKです。
📝 メモは“ひとこと”でOK
例)
- 「朝の薬が余ってた」
- 「夕ご飯を半分くらい残してた」
- 「最近あまり外に出てない様子」
きれいに書かなくて大丈夫。
LINEの下書き、スマホのメモ、紙の切れ端でも十分です。
💡 ちゃんとした記録は「必要になってから」で大丈夫
- 家族で共有したいとき
- 包括支援センターや病院に相談するとき
このタイミングで、
写真+メモをそのまま見せれば、それが立派な“記録”になります。

うまくまとめられていなかったり、書き忘れがある記録でも大丈夫です。
③ 小さく提案する
目的:抵抗を下げ、本人が「選べる」状態にする。
もし、主治医や地域包括支援センターから
何かしらのアドバイスを受けたとしても、
親への提案は“ひとつだけ”に絞るのがコツです。
たとえば、
- 手すりを1本だけつける
- お薬アラームを使ってみる
- 試しに配食サービスを1回試してみる
など、
「これならうちの親でも受け入れられそう」なものを一つだけ。
👉 たくさん提案すると、
「もうそんなにダメなの?」と警戒されてしまいます。
受け入れの準備につながる“小さな成功体験”の作り方
「介護サービスを使おう」といきなり提案しても、
多くの親は強い抵抗感を示します。
- まだそんなに困っていない
- 他人に家に入られたくない
- 手続きが面倒そう
- “要介護”と認めたくない
こうした気持ちが重なり、
介護サービスの利用は、想像以上にハードルが高いものです。
さらに、介護保険サービスは
申請・認定・事業所選定と、利用までにどうしても時間がかかります。
まずは「介護保険外」で試してみる
いきなり介護保険につなげようとせず、
誰でもすぐに使える“介護保険外サービス”から始めるのがコツです。
たとえば、こんなサービスがあります。
- ✅ 一度だけのスポット掃除
- ✅ 買い物への同行・代行
- ✅ お試しの配食サービス
- ✅ 緊急コールシステムの導入
どれも共通しているのは、
「一度だけ」「試すだけ」でOKなこと。
小さな成功体験が「次の一歩」をつくる
こうしたサービスを使ったあとに、
親の口からこんな言葉が出てくることがあります。
- 「意外と楽だったわ」
- 「これなら助かるかも」
- 「またお願いしてもいいかな」
この
“一度、手伝いを受け入れてみる”という体験そのものが、最大の成功体験です。
という、良い循環が生まれます。
介護は「いきなり本番」にしなくていい
介護は、
ある日突然フルサービスが必要になるものではありません。
- 最初は「掃除を1回」
- 次は「配食を週に数回」
- その次に「見守りサービス」
- そして必要になったときに、介護保険サービスへ
というように、
少しずつ“頼る練習”をしていく方が、結果的にうまくいきます。
「今すぐ何かしないといけないのかな…」
そんなふうに感じた方もいるかもしれません。
でも大丈夫です。
今日の時点でできるのは、
“気にかけること”だけで十分なのです。
まとめ:口癖の裏にある“本音”を理解すれば関係は前に進む
「まだ大丈夫」
この一言の裏には、
親なりの、いろいろな本音が隠れています。
- まだ介護されるような年齢じゃない
- 子どもに迷惑をかけたくない
- できることは、最後まで自分でやりたい
どれも、親として自然で、切実な気持ちです。
もしかすると、
その本当の重みは、
自分自身が親の年齢になったときに、やっと分かるのかもしれません。
今は、すべてを完全に理解できなくても大丈夫。
介護は、誰か特別な人だけに必要なものではなく、
多くの人が、人生のどこかで向き合うものです。
だから、必要以上に怖がらなくて大丈夫です。
まずは、
親の「まだ大丈夫」という気持ちをそっと受け止めて、
そして——
本当に困ったときに、手を差し伸べられる距離で見守れていれば、それで十分です。


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